相続基礎知識22
1 相続放棄はどのような場合にするのでしょうか。
例えば、被相続人が多額の負債というマイナスの財産を抱えたまま亡くなり、土
地、建物、預金のような被相続人のプラスの 財産の合計額よりも、マイナスの財
産の方が多い場合です。
法定相続人としては、被相続人の死亡による相続開始により、被相続人の財産
に属した一切の権利義務を承継することになるので、マイナスの財産の方が多い
場合、 法定相続人自身の財産を取り崩しても被相続人の負債の支払義務を負
うことにな ってしまいます。
このような場合に生ずる法定相続人の不利益を回避する方法の1つとして「相
続放棄」という方法があります。相続放棄、という手続は、法定相続人に、被相
続人の財産に属した一切の権利義務(プラスの財産もマイナスの財産も含む)の
承継を拒否する制度です。
もちろん、被相続人にプラスの財産しかない、又はプラスの財産の方が多い場
合でも、その承継を望まない場合には、相続 放棄の手続をとることもできます。
法定相続人は、被相続人の財産を承継するか承継しないのか、の自由を有して
いると言うことが出来ます。
2 では相続放棄の手続はどのようにしたら良いのでしょうか。
① 期間
相続放棄を行うことが出来る期間には法律上制限が設けられています。
原則・・法定相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時か
ら3ヶ月以内」(民法915条1項)に、相続放棄を行わなければ
なりません。
法定相続人は、この3ヶ月内(一般に熟慮期間と呼ばれます)に相
続財産の調査をして相続放棄をするのかしないのかを決定すること
になります(民法915条2項)。
なお、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、
相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつそのために自
己が相続人となったことを覚知した時を指します
(大決大15.8.3)。
例外・・〇これら、各事実を知ったとしても、被相続人との生前の交際状況
等から、被相続人の相続財産の状況を調査することが著しく困難な
事情があり、相続財産が全く存在しないと信じるについて相当な理
由があると認められる場合には、「熟慮期間は、相続人が相続財産
の全部または一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき
時から起算すべきである。」とされています
(最判昭59.4.27)。
〇また、民法915条1項但書により、この熟慮期間は、調査に相
当な時間がかかると見込まれるという特別な事情があるときは、利
害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所において伸長するこ
とができるものとされています。
〇なお、東日本大震災のケースでも調査に相当な困難さが伴うこと
が多いことに鑑み、特例法が施行されています(「東日本大震災に
伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法
律」)
② 相続放棄の申述
相続の放棄をしようとする者は、その旨を管轄(被相続人の最後の住所地)
の家庭裁判所に申述することになります。
申述は申述書の提出により行います。
未成年者と法定代理人が共同相続人であって未成年者のみが申述すると
き(法定代理人が先に申述している場合を除く。)又は複数の未成年者の法
定代理人が一部の未成年者を代理して申述するときには,利益相反行為とな
るため、当該未成年者について特別代理人の選任が必要です。
③ 家庭裁判所の審判
相続放棄の申述がなされると、家庭裁判所の審判により、放棄の申述が受
理されるべきか否か審査されます。
放棄の申述が受理された場合、家庭裁判所は相続放棄者に対して相続放
棄申述の受理証明書を申請により交付します。
④ 相続放棄の効果
相続放棄の申述が受理されると、その相続に関して、はじめから相続人と
ならなかったものとみなされます(民法939条)。
亡くなった人の財産を管理している場合は,次順位の法定相続人に引き継
ぐことになります。また,債権者から債務の請求をされている場合には,債
権者に対して,家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されたことを連絡するの
がよいかと思われます。その際、相続放棄申述の受理証明書を示されると良
いでしょう。