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相続の基礎知識8

 前回に引続き相続財産(遺産)に関するお話です。今回は,生命保険金や死亡退職金について説明したいと思います。

1 生命保険金は相続財産(遺産)となるのでしょうか

  例えば,子供がいない夫婦において,夫が万が一のときに妻のために自分を被保険者として生命保険に加入していたところ,夫が死亡してしまいました。このとき,妻のことを快く思っていなかった義父母が息子の遺産だから私たちにもよこせとしゃしゃり出てくるということはありそうですよね。この場合,生命保険金について義父母にも権利があるのでしょうかという問題です。
    以下,場合を分けて考えてみましょう。
   
(1)保険契約者が自己を被保険者(被相続人)とし,相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合

  まず,生命保険契約は,特定の人の生死を保険事故とし,その保険事故の発生した場合に,保険者が保険金受取人に対し,約定の一定金額を支払うことを約し,保険契約者がこれに対し保険料の支払をもって酬いる契約です。
     つまり,保険金請求権は,保険契約者と保険者(保険会社)との間の保険契約にその発生根拠があるのです。
     そうすると,先の例で,夫が保険契約で受取人を妻と指定していた場合,夫が死亡した際に発生する保険金請求権は,保険契約者である夫と保険者である保険会社との間で締結された「夫が死亡した際に発生する保険金請求権を妻に取得させるという内容の保険契約」によって発生するのであるから,受取人と指定された妻は固有の権利として保険金請求権を取得することになります。なお,最高裁も同様に考えています。
     そうすると,生命保険金請求権は夫の相続財産(遺産)を構成しませんので,義父母は夫の相続財産(遺産)であると主張して遺産分割を求めることはできません。
     
(2)保険契約者が,自己を被保険者(被相続人)とし,保険金受取人を単に「被保険者又はその死亡の場合はその相続人」としていた場合

  この場合,受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的にしか指定していませんが,保険契約者(=被保険者=被相続人)の意思を合理的に推測すると,特段の事情がない限り,被保険者が死亡した時点における「被保険者の相続人となるべき者個人」を受取人として特に指定したと考えられるため,被保険者の相続人が固有の権利として保険金請求権を取得することになります。
    そうすると,先の例でいうと,夫の相続人は,子供がいないため妻と義父母となりますので,妻と義父母がそれぞれ固有の権利として生命保険金請求権を取得することになります。
    では,妻と義父母は,平等に1/3ずつ割合で生命保険金請求権を取得するのでしょうか。
    この点については,保険契約者の意思を合理的に推測すると,保険契約者が受取人を「相続人」と指定した場合には,特段の事情のない限り,このような指定には,相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を「相続分の割合による」とする旨の指定も含まれていると考えられます。
    したがって,法定相続分に応じた割合でそれぞれが固有の権利として取得することになります。
    最高裁も同様に考えています。

(3)保険契約者が自己を被保険者とし,保険金受取人については指定していなかった場合

  この場合,保険契約者の意思からは判断できませんので,保険約款及び法律の規定に従って判断するしかありません。
    なお,保険約款に「被保険者の相続人に支払います。」との条項がある場合には,保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合と同じになるので,(2)と同様な結論となります。

(4)保険契約者が被保険者及び保険金受取人の資格を兼ねる場合

  この場合は,被保険者と受取人が同じ者という点でこれまでとは少し事情が異なります。
     先の例でいくと,夫が自分を被保険者かつ受取人としていた場合です。

ア 満期保険金請求権

  満期保険金請求権は,満期が来たら受取人がいつでも請求して保険金を支払ってもらえる権利であるため,満期後被相続人が死亡した場合には,遺産分割の対象となる相続財産(遺産)となります。
  先の例でいうと,満期後夫が死亡した場合は,満期保険金請求権は夫の相続財産(遺産)となり,同権利を行使して保険金を請求するためには,妻と義父母は遺産分割協議をしなければなりません。

イ 保険事故による保険金請求権

      保険事故による保険金請求権については,保険金請求権が発生した時点で受取人が死亡しているわけですので,保険契約者の意思を合理的に解釈すれば,相続人を受取人と指定する黙示の意思表示があったと解するのが相当です。
      したがって,保険金請求権は相続人の固有の財産となり,相続財産とはなりません。

2 死亡退職金は相続財産(遺産)となるのでしょうか

  死亡退職金は,賃金の後払いの性質と遺族の生活保障としての性質があると言われています。前者の性質に重きをおけば相続財産(遺産)となるのではないかとも思われますが,後者の性質に重きをおけば相続財産(遺産)にはならないのではないか,ということで問題となるのです。
    この点についての実務としては,死亡退職金に関する支給規定があるか否かで分けて考えています。
    支給規定がある場合には,支給基準,受給権者の範囲又は順位などの規定により遺産性を検討します。
    なお,国家公務員の死亡退職手当,地方公務員の退職手当については,法律,条例により,受給権者を遺族とし,受給権者の範囲及び順位について,民法の定める相続人の範囲及び順位と著しく異なった定めをしていることからは,受給権者固有の権利であり,相続財産(遺産)ではないと解されています。
    支給規定がない場合には,従来の支給慣行や支給の経緯等を勘案して個別的に遺産性を検討するしかありません。

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