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相続の基礎知識13

 今回は,「特別受益」についてです。

1 特別受益の制度とは何でしょうか。

    共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受けたり,生前に婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けたりした者がいた場合に,相続に際して,この相続人が他の相続人と同じ相続分を受けるとすれば不公平になるため,特別な受益(贈与)を相続分の前渡しと見て,計算上贈与を相続財産に持ち戻して(加算して)相続分を算定することをいいます(民法903条1項,2項)。
    例えば,父が8000万円の財産を残して死亡し,母と長男,二男が相続人の場合で,生前父が長男のみに2000万円の預金を贈与していた場合,相続財産について法定相続分に従い相続すると,母は4000万円,長男は2000万円,二男は2000万円を相続することになりますが,二男としては(場合によっては母も)長男が生前2000万円の預金の贈与を受けていることからして不公平に思うでしょう。この場合長男が生前贈与を受けた2000万円についても計算上は一旦相続財産に戻して1億円とし,これを法定相続分にしたがって相続分を計算したうえで(母5000万円,長男2500万円,二男2500万円),そこから特別受益を受けた長男については特別受益分(2000万円)を控除して具体的な相続分を確定する(母5000万円,長男500円,二男2500万円)のが特別受益の制度になります。
    もっとも,被相続人が,異なった意思表示をしたとき(持ち戻しの免除)をしたとき(例えば長男のみ2000万円余分に渡したいなど)は,その意思表示は遺留分に関する規定に違反しない範囲で効力を有します(民法903条3項)。

2 特別受益の種類

  次に,特別受益の種類について見てみましょう。

(1)遺贈

   遺贈とは,遺言によって遺言者の財産の全部又は一部を無償で相続人に譲渡することです。
   遺贈は,その目的にかかわりなく,包括遺贈も特定遺贈もすべて特別受益となります。「相続させる」旨の遺言があった場合も同様です。

(2)生前贈与

    ①婚姻又は養子縁組のための贈与
      持参金,支度金については,婚姻又は養子縁組のための贈与として一般的に特別受益にあたるとされています。
        挙式費用,宴会費用は,本人のためというよりは親のためという部分もあるため,一般的には特別利益にはあたらないとされています(もちろん,場合によってはあたる場合もあります。)。
    ②学資
        高等教育を受けるための学資(入学金,授業料)については,被相続人の生前の資力,社会的地位,他の相続人との比較などを考慮して判断することになります。
    ③その他の生計の資本としての贈与
        居住用の不動産の贈与又はその取得のための金銭の贈与,営業資金の贈与,借地権の贈与など,生計の基礎として役立つような財産上の給付をいいます。

3 特別受益が問題となる事例 

 他の相続人から特別受益の主張がなされそうなものについて見てみましょう。

(1)共同相続人の1人が受取人とされる生命保険

      死亡保険金請求権については受取人固有の権利であるため(相続の基礎知識8参照)原則として特別受益とはなりません。
      もっとも,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,特別受益に準じて持ち戻しの対象となるとされています(最判平成16年10月29日)。
      例えば,めぼしい相続財産がないにも関わらず高額な死亡保険金を一部の相続人のみが受け取る場合などが考えられます。

(2)死亡退職金等の遺族給付

      これも受給権者固有の権利と考えられており,また受給権者の生活保障を目的とした制度に依拠して支出されたものであるため,持ち戻しの対象とすべきではないとされています(相続の基礎知識8参照)。

(3)土地の無償使用(使用貸借)による利益

     遺産である土地上に,相続人の1人が被相続人の許諾を得て建物を建てその土地を無償で使用している場合には,他の相続人としては無償で土地を使用している利益について特別受益を主張したいですね。
     この場合,相続開始時における遺産土地についての使用借権は,生計の資本としての贈与として特別受益になるとされ,土地使用借権相当額について特別受益を受けたと考えることになります。
     もっとも,無償使用する経緯によっては,被相続人の持ち戻し免除の意思表示の有無を検討することになるでしょう。

(4)建物の無償使用(使用貸借)の利益

   被相続人の建物に無償で居住していた場合,特別受益となるのでしょうか。
   まず,被相続人の強い希望によって同居していた場合や療養看護等のために同居していた場合等には,単純に相続人の利益のためとは言い難いため特別受益には当たらないでしょう。また,被相続人と同居していたが,独立の占有がない場合にも使用借権があるとはいえず特別受益にはならないでしょう。
      では,相続人に独立の占有が認められる場合は,賃料相当額が特別受益に当たるのでしょうか。
      この場合は,被相続人としては賃料相当額を持ち戻すことを予定していないのが通常と考えられるので,特別受益ににはならないというべきでしょう。

4 特別受益の評価基準時

    特別受益があると,相続開始時の遺産に,生前贈与等の金額を持ち戻すことにより「みなし相続財産」を確定し,各共同相続人の相続開始時の相続分を算定することになります。
    つまり,被相続人が生前贈与をしなかったならば,相続開始のときに残っていたであろう財産を考えて,それをどのように分けるかを考えるのです。
    特別受益がこのような制度である以上,必然的に特別受益の評価基準時は相続開始時となります。
    では,具体的に見てみましょう。

(1)金銭の場合

   例えば,昭和30年代に100万円贈与があったとします。現在でも100万円は100万円ですが,昭和30年代とは買えるものに著しい差があり実質的価値に著しい差があります。
     したがって,特別受益として持ち戻す場合は,消費者物価指数により現在の価値に換算して持ち戻すことになります。

(2)その他の場合

  ①受贈者の行為によって受贈財産が滅失又は価値の増減があった場合
        相続開始の当時,なお原状(もとの状態)のままであるものとみなして算定します。
        例えば,贈与当時1000万円の居宅を贈与された者が,それを滅失させたり,売却したり,修繕を行ったりしても,同居宅が贈与を受けたときの状態のままであるとみなし,そのうえで相続開始時の価値が1200万円であれば,1200万円として持ち戻します。
    ②受贈者の行為によらずして受贈財産が滅失した場合又は価格の増減があった場合
      受贈財産が滅失した場合は,特別受益はないものと考え,価格の増減があった場合には,変動後の価格を持ち戻すことになります。

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